日弁連の弁護士業務に関するシンポジウム(2003.11.鹿児島市)において、長岡法律事務所の仕事のやり方が先駆的であるとして取り上げられました。副委員長若松敏幸弁護士(下関市)の報告文が日弁連機関誌「自由と正義」に掲載されました。以下はその原稿です。
 長岡法律事務所が依頼者に提供する業務システムを端的に表現していますので、引用してご紹介します。


(自由と正義2004年2月号 若松弁護士原稿を援用)
日弁連業務改革シンポジウム 第1分科会報告
分科会テーマ 事務職員との協働による業務革命
2003.11.14. 鹿児島市 城山観光ホテル



第13回日弁連業務改革シンポジウム
第1分科会報告
事務職員との協働による業務改革

―― 21世紀の職員主体の業務モデルの発見 ――
 
シンポジウム運営委員会
副委員長 若 松 敏 幸
(山口県弁護士会会員)


1 今回のシンポジウムの背景にあるもの
2 雇用契約から委任契約へ
3 職員主体の業務モデル
4 最後に――弁護士の意識改革
 
 
1 今回のシンポジウムの背景にあるもの
 
 今、日本社会は、司法改革という大きな波に直撃しています。司法改革の目的の一つは、国民が司法制度を利用しやすくするためであるといってよいでしょう。
 したがって、そのためには裁判所の法サービスの充実もさることながら、弁護士(法律事務所)も質・量ともに充実した法サービスの提供が求められます。
 その際、弁護士を直接的に補助できるのは、法律事務所の構成員である職員以外には存在しないといって過言ではありません。 それゆえ、弁護士と職員の協働体制(いわゆる仕事の仕方のモデル)が混沌とし、両者の役割分担・関係が不明確であるなら、この時代の要請に応えることは困難です。
 このような観点から、第1分科会は「職員との協働による業務革命」というテーマでシンポジウムを行いました。
 
 
2 雇用契約から委任契約へ
 
 第1分科会では、長井友之分科会長(群馬)の問題提起、久留米大学の仁木恒夫氏の基調報告、三木正俊副分科会長(札幌)をコーディネーターとする5名のパネリストによるパネルディスカッションがなされました。また、加藤哲夫委員(福岡県)から、現地調査に基づくスクリーンを利用した分かりやすい「ドイツの法律事務所職員」の興味深い教育・研修制度が紹介され、更に、鹿野哲義委員(仙台)からは、日弁連におけるパラリーガル制度改革の取組みの現状の報告と解説がなされました。
 パネルディスカッションでは、パネリストから、所属する事務所の貴重な協働事例が多数紹介されましたが、紙数の関係で、サブタイトルの「業務モデルの発見」に焦点を合わせ、一つに絞り込んで紹介します。長岡壽一弁護士(山形県)が提示された「職員主体の業務システム」(以下、長岡システムと略す)です。
 長岡システムの特徴は、弁護士と職員の協働関係の中身、つまり契約関係を、雇用契約から委任契約へと、その重心を移動している点です。

 委任と考えるところから出発しますと、雇用が、労務それ自体の提供であるのに対し、委任は、一定の事務を処理するための統一的労務を目的とする。従って、労務者(受任者)は、自分の知識・経験・手腕によって適当に処理する自主性を保留する(我妻榮博士・債権各論532頁)。受任者は、委任者の指揮だけに頼ることなく、任された事務をその目的に従って、最も合理的に処理する権利・義務を有する(前同656頁)ことになります。
 この委任契約の特性をふまえ、長岡弁護士は、職員の仕事は、弁護士が立てた戦略(委任の本旨、つまり結論・方針)に従い、戦術(目的達成までの統一的事務処理)を実行することである。職員は、弁護士から指示待ちでなく、戦術としての具体的な事件解決活動である仕事を一貫して主体的に認識し、自ら考え、取り組み、調査・検討・質問する等して結果を出し、逐次、弁護士に報告・提言し、事件終了までの全行程を弁護士と協働しようとするものです。
 以下、長岡弁護士の言葉を要約引用して紹介します。
 
 
3 職員主体の業務モデル
 
 (1) 原理−−協働の中身(契約の内容)
 
 「私がお話ししたいすべてについて共通する、いわば原理について、最初にお話し致します。協働という言葉は極めてあいまいな一般概念です。我々は法律家ですから、協働というあいまいさを排して、どのような契約内容があるべきなのか、つまり、弁護士と事務員はどのような契約をしているのかということを確認したいと思います。
 従来、この点は、民法に規定してある契約類型の中で、雇用契約であると理解されてきたと認識しています。果して本当に弁護士と事務員の契約が雇用契約なのか、という疑問を持つべきだと考えます。一部の方は請負だという人もいます。しかし、そうでしょうか。委任ではないのか。
 よく考えますと、雇用、請負、委任、その三つの要素が混在している。それが、法律事務所における弁護士と事務員の関係なのではないかと思います。この三つの要素の中のどこに重点を置いているのかによって、その法律事務所の特徴付けが行われると私は理解しております。
 私の考えは、標語的に言いますと、『雇用から委任へ』ということです。雇用ではないという意味ではありません。その三つの法的な性格を持ちながらも委任という観点から、もう一度考え直して再構築してはいかがでしょうか、という問題提起です。
 
 (2) 職員の数と役割分担
 
 私の事務所では、職員が9人ですが、実際に事件をやっているのは6人です。その6人が役割の分担をしています。役割は、事件ごとにやっています。依頼者ごとに分ける場合もありますし、事件の性格で分ける場合もありますが、いずれにしてもこの事件この依頼者は誰ということで決まっています。
 
 (3) 電 話
 
 まず、電話を受け取るのは事務員です。この電話の受付が仕事の中で一番難しいと私は思っています。電話を受け取る人は、この9人の中では半分しか私は許可していません。つまり経験を積んだ人だけが電話を受け取るというシステムです。
 その電話を受け取った人が、自分の担当している仕事でなければ、その担当者に電話を直ちに回します。担当者は電話を受け付けて、例えば新たな相談であれば、相談の日程を決めます。
 その中で、事案の性格ごとに何を持って来てもらいたいのか、例えば契約書であるとか、戸籍であるとか、いろいろな事案によって違います。それを指示し、相談の日に至ります。
 
 (4) 相談受付と相談・同席・メモ取り
 
 事務所において相談を受ける場合には、事務員が相談票に必要事項を記載して、まず、登場人物、つまり誰が関係者なのか、相手方、利害関係者等を確認します。
 それから、持って来ていただいた書類をチェックしまして、必要と思われるものは最初にコピーをさせていただきます。その結果を弁護士に報告して、弁護士が相談室において相談をお受けします。その場合に、相談室の中には、相談者、弁護士、それに担当の事務員、この三名が同じ部屋に入ります。相談の内容については、すべて事務員が脇で聞いて、メモを取ったり、必要な書類のコピーなどの作業をするということをやっております。
 
 (5)受任手続・書類の入手
 
 この法律相談の中で、事件としてお引き受けすることになる場合があります。その場合は、引き続いて受任の手続を致します。これも、事務員がすべてやります。受任には、三つの書類が必要です。一つは委任契約書、一つは委任状、一つは請求書です。手数料とか、着手金の請求書、この三つの書類を作成して、その場で依頼者に対してお渡しをする。
 受任手続を終えますと、次に、今回の例では、民事訴訟になるという案件を想定して、原告になって訴状を裁判所に出しましょう、というケースを前提にお話し致します。
 訴状を提出するためには、例えば法人であれば、商業登記簿謄本、その他の資格証明書、不動産に関係する事件であれば、登記簿謄本、人事関係であれば住民票、戸籍等の書類をそれぞれの部署から取得する、あるいは、依頼者に頼んで取得してもらうという手続があります。これらのことは全部事務員が行います。
 
 (6) 訴状の草稿作成
 
 それから、訴状を作成するということについても、事務員が行います。訴状はもちろんワープロで入力するわけですから、その原稿を事務員が入力して、弁護士にそのワープロの画面を提示して、弁護士が最終確認をして完成させるということになります。そのようにして作成された訴状を裁判所に提出します。
 
 (7) 職員による期日の管理
 
 提出後、第1回期日の打ち合わせがあります。この点についても事務員が期日を入れます。裁判所の期日はもちろんですが、事務所にお出でいただくための相談期日、あるいは、お引き受けした後の協議、交渉の日時、それらの期日も全部弁護士の日程は事務員が管理して決めます。いちいち弁護士の都合を聞かないと入れられないということは一切ありません。私はその期日の報告を受けて、それに従って動くということです。
 
 (8) 陳述書の作成
 
 お引き受けした後は、裁判関係の事件になる場合は、陳述書を作成します。これは、必要に迫られて出すのではなく、お引き受けしたら直ちに陳述書の作成にとりかかります。訴状の作成と同時進行的に陳述書の作成をするということです。逆に言いますと陳述書があって初めて訴状が作られるという順になります。
 
 (9) 法廷業務の職員同行と報告書の作成
 
 それから、第1回、第2回と、期日が続いていきます。第1回は原則として公開法廷で行われますから、傍聴はどなたも自由です。事務員ももちろん傍聴に行きます。第2回以降は、多くの場合は、弁論準備手続になります。場合によっては、和解期日が定められることもあります。これらの手続にも、事務員はすべて弁護士よりも先に行って、依頼者との打ち合わせや依頼者に対する場所の説明とかを裁判所の中で行っております。
 それから、弁論準備期日や和解期日においては、そこでやり取りされたこと、相手方の主張、裁判官の指摘事項などを、職員が全部メモを取っておきます。
 そのような期日を経たならば、直ちに事務員が依頼者に対する期日の報告書を作成します。そして、その報告書の原稿を私に提示して、私がその内容を確認して、大抵は法的な方針であるとか付け加えるべきものが幾つかありますので、それを付け加えて完成させた上で発送するという作業です。
 
 (10) ペアシステムの採用
 
 問題は、事務員は本当にこれらの作業を一人でやれるのか、不安じゃないのかということですが、当然、それぞれ困難な課題があります。それで、私はペアシステムと名付けている方法を取っています。事務員は二人でペアになってチェックしあうということです。A事務員が作った文書をB事務員がチェックをして私に提示する。だから、私の目の前に提示される画面の前には必ず二人以上の事務員が手を加えたり、チェックをしたりして確認をしているということです。
 そうしますと、間違いの可能性が大きく減少するのです。それから、もう一つ、事務員同士が情報を共有することによって、ほかの事務員が、隣の事務員が何をしているのかということが分かります。これによって、事務員のレベルアップがお互いに相乗効果で実現できるのではないかと期待しております」
 
 (11) 職員の訴状・準備書面の草稿作成への疑問の提示
 
 仙台の職員パネリストから「訴状・準備書面等の作成の仕事はとても大事な仕事なのに、それを、弁護士ではなく事務員が書いているということを、依頼者が知ったら、『えっ』というふうに思ったりするのではないか。裁判官は判決の草稿を書記官にはさせないだろう」と、判決書きとの対比も含めて、職員が訴状・準備書面の草稿作成に関わることへの強い疑問を出されました。それに対する長岡弁護士のコメントは次のとおりです。
 「訴状・準備書面を弁護士が作るのは当然です。作成名義人が弁護士ですから、私が作ります。しかし、その下書きを誰がやるかは全くの自由のはずです。
 例えば、本人訴訟でやっていた。だけど不安になったから、弁護士に頼みたいと言って持って来た。あるいは、司法書士が書いたけれども、弁護士に頼みたいということで持って来た。その訴状を見たらほぼ完璧にできている。どうします、ボツにして破り捨てますか。弁護士が最初から聞いて、最初から起案しなければだめだということで作り直すでしょうか。そんなことをする弁護士はいませんね。問題は、最終的に事務所から外に出すときに誰が作成したのかということです。その前に誰が事前準備をしたり原案を作ったりするかは、作成名義とは関係ありません。これが協働の役割分担だと、私は理解しております。
 また、例えば、いきなり準備書面から作ろうとすると、大変難しいのです。それを事務員にさせるなんてとんでもない。私もそう思います。私が言っているのはそうではなく最初に陳述書を作るのです。素直に聞いたことを、事実をそのまま陳述書に書くのです。それを訴状・準備書面に変換させるというのは難しいことではありません、というのが私のポイントになります。
 あくまで、事情を聞くのは弁護士です。それに同席して事務員も同じ情報を得るのです。そこで、例えば内容証明を出すことにしましょう、という方針が決まる。それをお引き受けする。内容証明から入りましょう、となったら、その内容証明の起案をするのは事務員がやる。さらにその後、訴訟が予定されている場合には、できるだけ早い時期から陳述書の作成に入る。これも事務員の仕事です。こういうことです。事務員が一人で全部事情聴取して、書面を作ってということではありません。」
 
 (12) 「職員のレベル」という問題意識について
 
 次いで、長岡弁護士に対し、長岡事務所の職員は、かなり高度な仕事をしており、能力のレベルが高いようだが、その採用、研修・レベルアップの手法について質問がなされた。長岡弁護士の答えは次のとおりです。
 「先入感的な評価をされるとまずいと思います。つまり、優秀だとか、決してそんなことはないですね。事務員のレベルがどうこうと考えることが最初から間違っていると思うのです。なぜかと言いますと、弁護士が思い上がっているのです。弁護士こそがレベルが高く、事務員はレベルが低い、事務員はできるわけがないだろうと、こういう考え方をしてしまっているのです。
 弁護士が事務員の能力というものを正当に評価しない、見下げてしまっているということです。事務所に入ってきた事務員は、弁護士からどこまで自分が期待されているのかということを知って、その期待に応える。
 仮に、弁護士の期待のレベルが低ければ、それに相応した仕事をやっていけば、お客様である弁護士は満足するわけです。そのレベルが、自分にとって高いか低いかというのは、事務員の能力とは関係ない。弁護士の期待するレベルの問題ですから。
 事務員のレベルが高いとか低いという考え方自体が、事務員と弁護士の関係を理解する場合に間違った意識を持ってやろうとしているのではないか。これは「改善」にはなるかもしれないけれど、決して「革命」にはならないのではないかと思います。
 
 (13) コンサルテーションからカウンセリングへ
 
 また、弁護士は法律の専門家であるということを、間違っているのではないかと思うのです。つまり、専門というと専らの門です。ですから、その専の門は狭いのです。狭いところに入って来ないのは法的判断には関係ないのです。相談者は、門なんていうのは存在しない、見えないです。困っている、悩んでいる、どうしていいか分からない、何とかしてほしい、誰に頼んでいいのかすら分からない。そういう方には門は見えないのです。
 弁護士が勝手に門をつくってしまっているのではないか。その門を取り外さないと、本当の意味での相談者と弁護士、依頼者と弁護士の信頼関係というものが出てこないのではないか。
 このような観点から、私は悩みは何でも聞きます。その中で弁護士が解決などにお役に立てる部分は、最後は限られているかも知れない。だけれど、あなたが悩んでいる問題と認識していることは、全部お話ししてください、という部分から入るべきです。それは、カウンセリングという言葉で表現されます。ですから、『法律相談はコンサルテーションからカウンセリングへ』という標語を、私は提案しております。
 カウンセリングだったら、法律を知らなくても、人の話を素直に聞くという、それだけの素質があれば聞くことができます。私自身、そのようにしたいと思って相談を受けています。
 1時間の前半はそのように受けます。後半はそれを法律的に構成して、解決の方向へ導いていかなければなりません。解決策を提案したり、法的判断を提示しなければなりませんから後半部分はその中から法的問題というか要件を絞って提案します。
 しかし、前半部分は、弁護士でなくてもできるはずだというのが私の基本的な認識です。そこから、弁護士と事務員との役割の在り方というものを考えてみてはどうなのかということです。
 
 (14) 弁護士は戦略、事務員は戦術を
 
 弁護士と職員の役割は元々違うわけです。何が違うのかということをはっきりさせることから出発している。これを標語的に言いますと、『弁護士は戦略、事務員は戦術」をそれぞれ担うということです。
 戦略を担うのは弁護士でしかあり得ない。事務員が戦略を考えてしまうと、過ちを生じさせることになりましょう。弁護士が戦略というのを頭の中で構想して、その目標実現のために、どんな筋道を立てていくのか、例えば相手に対して内容証明を出すというのは戦術です。戦術面というのは、身体を動かすことによって実現する。戦略というのは、外から見たのでは絶対見えないけれども、必ずや頭の中で構成されている部分ということです。
 それをはっきり役割分担としてお互いが認識をする。そこが基本。その基本からすべての役割が出てくるということです。弁護士と職員の役割を分担する、分ける。そして、戦術面でやれることはできるだけ事務員がやるということです。私は、事務員主体のシステムの内容を次のように整理してみました
 
 T 指示
  @ 弁護士からの指示を認識し、着手するよう態勢を整える
  A 事務員が弁護士に質問・協議して、指示内容を理解する
 U イメージ
  B 目標が実現した状況をイメージし、意識と意欲を持つ
  C 実現目標のイメージを弁護士に伝え、弁護士と共有する
 V 手段
  D 自ら考え、前例・文献で目標実現の手段を思い描く
  E 最適の手段を弁護士に提言し、弁護士と協議の上選択する
 W 実行
  F 選択した手段方法の行程に従い、実行する
  G 実行内容をペア事務員同士でチェックする
  H 事務員が弁護士に疑問・情報を報告して、方針を協議する
 X 報告
  I 実行の成果を報告・確認し、次の段階の指示を受ける
 Y マニュアル
  J マニュアルにし(形式知の体系化)成功失敗原因と対策を追加し、改訂を重ねる
 
 今までの一般的な感覚での弁護士と事務員の仕事の役割というのは、弁護士が事務員にこれこれの仕事をしてくれと頼み、事務員がやって、できましたと報告をする、こういうことだと思うのです。つまり、前述の@、D、F、Iの点だけが一般には行われているのではないでしょうか。
 例えば、弁護士にとって、これではだめだ、間違っている、期待したものが出てこなかったという場合に、私はなぜこうなったのですかという理由を事務員に聞く。そうすると、事務員の大抵の人は、「すみません。気をつけます」と言うのです。何故という原因が分かってないのに、何に気をつけるのだろう、何を気づいて謝っているのだろう、と私は理解できないのです。質問と答えが全く一致しない、どこも重なっていないわけです。
 そういうことは、皆さんも日常的に経験していることだと思います。それで、お互いにどのようなシステムでこの仕事ができ上がったのか、あるいは、でき上がらなかった原因はどこにあるのか、ということをチェックしなければならない。
 しかし、そのチェックシステムがほとんどないのです。私もこういうことを事務局でやっているかというと違うのです。このパネリストになれと言われたものだから、自分の事務所でやってみようと、私が事務員にどう仕事をしているのか要素を出してもらって、それを参考にしてつくって、今、私の事務所でも試しにやっている。完成品ではありません。
 ですから、皆さんの事務所で、この中でどの部分をやっているのか、どの部分をやっていなかったのか。やっていない部分を、これからやる意味があるのかどうか、ということをそれぞれの事務所にあわせて見ていただきますと、このチェックリストの意味が分かるのではないかと思っています。」
 
 
4 最後に ――  弁護士の意識改革
 
 私は、この長岡システムを、職員が、相談の同席から始まって陳述書や訴状、準備書面等の草稿までできるための業務モデルとして紹介しているわけではありません。全ての職員にそのような仕事を望むことは、現在の法律事務所の受入れ体制の違いからして不可能なことです。職員に望み、期待する内容は弁護士によって千差万別です。職員に期待する仕事の内容は、ひとえに職員を雇用する弁護士の見識・性格に全面的に委ねられています。
 つまり、職員は弁護士絶対主義の中で存在しているわけです。この弁護士絶対主義から職員の能力を解放すること、換言すれば弁護士の職員の業務能力限定主義・差別主義を排することです。パネリストである原口紘一弁護士(東京)の「まさに問題は、弁護士の意識改革なんです。事務員さんのほうから仕事の在り方や事務所の在り方を変えようと言ってもできないわけです」という至言のとおり、弁護士自身が職員との協働をどう構築するのかが問われている。それが今回のシンポジウムであったと考えています。
 そして、法律事務所の業務遂行の基礎前提として、弁護士は、依頼者の人権以前に職員の人権を守り、福利厚生をはかる、労働基準法の理念を厳守する。他方、職員は弁護士を守り、仕事において日々絶対的な成果を出す。弁護士会は、会員に対し、労働基準法等の厳守や、職員の人権擁護をはかる措置の勧告、職員が法律事務所の業務万般を遂行できるような基礎力を付けるための一貫した業務研修を実行する。このような三位一体の法律事務所・弁護士会の改革も求められてくるのでしょう。


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