長岡壽一講演録(企業経営) 1998(平成10)年12月4日(金)
山形市蔵王温泉 高見屋旅館 講師 弁護士 長 岡 壽 一 Nagaoka,Toshikazu 長 期 不 況 下 の 経 営 判 断 −−60年に1度のチャンスを逃すな−− はじめに いま企業経営を確実にやっていくについて、皆さんはもちろんお持ちでしょうが、どのような視点を持つべきか、皆さんが考えていないようなこともあるのではないかと思いまして、お話します。皆さんが考えていないこととは、私と皆さんとは違う視点を持っていることに基づきます。つまり、私は法律の専門家であり、皆さんは企業の経営者ということです。もちろん私自身も長岡法律事務所というひとつの超零細企業を経営していますので、経営者としての感覚を持たなければなりません。その点で共通性もあります。しかし、ものの見方は、職種あるいは興味の方向性によって違ってきます。ですから、私は、今日は、一般的判断からすれば相当違ったことを言うと思います。皆さんが聞きなれないことを言うかもしれませんが、それを単に聞き流すのも方法ですし、自分とマッチさせて考えてみようということもひとつの方法です。ここから先は、皆さんのご判断と対応にお任せします。 ものごとの見方 まず、第一点は、今がどういう時期なのかという時代の認識です。歴史は、小学生から中学、高校、大学と全部教わります。しかし、これは、単なる過去の知識の認識に過ぎません。つまり、後ろ向きの、すでに終わった知識を把握しているに過ぎないというのが、一人ひとりの来し方を振り返ってみますと、そう理解できるのではないでしょうか。学校で学ぶことは、すべて過去のことなのです。ですから、学校のペーパーテストでいい点数を取る優秀な人とは、後ろを向いてみて一番良く分かっている人なのです。しかし、社会の企業経営の中ではどうでしょうか。過去のことを分かっているだけでは、絶対に良い経営は出来ません。前を見ることの出来る人が、経営者として成功するわけです。これは、絶対的な真理です。つまり、学業成績と、経営者あるいは社会人として判断すべき方向性とは、後向きと前向きという正反対なのです。 ですから、一般に、良い大学を出たり、資格を持っていたりすると、あの人は頭が良いのだろうと思いがちですが、それだけで社会に対して有用な役に立つ情報を与えられるかどうかというと全く違います。むしろ、場合によっては逆かもしれません。それを判断するのは皆さん自身ですから、それらを正しく判断出来る視点をもう一度考え直してみてはいかがかということです。そうすると、私自身が弁護士だという観点を最初から否定することにもなりかねませんが、私は、本来、人間が判断されるには、着ている物つまり格好、または資格、出身や経歴などではないと考えます。これから本当に役に立つ仕事が出来る人とは、何にもとらわれない人であり、今までのしがらみにとらわれないで自分が今の現況というものを率直に正しく把握して認識し、それをもとに、場合によっては打開し、場合によっては発展させ、自分で納得でき、最終的に満足できる経営をすることが大事だろうと思います。 景気循環論の視点 では、今は何か。全て歴史の中で物事は動きますし、我々はその中にいます。そして、歴史の捉え方の中でも、今日は企業経営に携わっておられる方々ですから、その視点でポイントを絞ってお話をしたいとおもいます。テーマに掲げたとおり、今は長期の不況だといわれています。昔のロシアの経済学者であるコンドラチェフの波動、景気循環論によると、55年に1度の周期で大きな変動があるということです。それは、歴史をさかのぼって検討した結果、法則になっているという考え方を示しています。私は、経済学者ではなく単に聞きかじっただけですから、詳しい理屈はよく分かりません。しかし、ここで私は、60年あるいは65年という仮説を提案します。この期間は、2世代です。昔の1世代は、25年、あるいはそれより短かったかもしれません。そうすると、おじいさんと孫の間です。私が生まれたときに父親は何歳だったかと考えると、その親と自分との年齢差が一つの世代ですから、それを2倍すると2世代になります。高見屋でも世代が交代して社長が代わったというお話がありましたが、1世代間つまり直接の父親と子供の間では、経験に基づく情報の伝達が出来ます。しかし、さらに孫に対して、おじいさんの情報や経験が十分伝わるかというと、それはなかなか難しいことです。つまり、災害は忘れた頃にやってくるいう言葉があるように、忘れてしまうのです。その結果、同じことを人類は繰り返すわけです。今から60年前は、1930年代です。1929年に、ニューヨークを震源地として株価大暴落があり、そこから30年代の大不況に入っていきました。それから60年は、1990年になります。そして、今その10年間を過ごしている時期にあたるわけです。これは、一つの仮説です。 幸福のための目標−−−三つの相 それから、もう一つは、別の視点から見ると、経済や政治を含めた社会の波動は、大きく3つの相で成り立っていると言われています。それは、何をもって、私達の生きる目的とするのか、何をもって幸福を求める一つの目標とするのか、その目標の捉え方が、3つあるということです。 その1つは、国家です。国が強くなれば、その国に属している国民は幸せになれるのだという考え方です。私は直接経験していませんが、そういう時代は確かにあったはずです。直接的な経験で、なるほどそうだったと思われる年齢の方もいらっしゃると思います。 その次は、経済の時代です。つまり端的に言えば、会社、自分が所属している会社にとって、業績がよく売上が伸びて利益が上がり成長発展していけば、そこに所属している役員はもちろん社員が幸せになれて、その家族も一緒に幸せになれるという時代です。 その次は、個人の時代です。一人ひとりの人生は皆違うということを前提として、それを認められるような、つまり一人ひとりが皆を大切に出来るような個人の時代が三番目に来ます。この中で、一番活性化して生き生きと生きる時代は、個人の時代です。 国家の時代 これらを日本に当てはめてみると、国を強くするためには軍事力です。国と国との競争は軍事で、領土を拡大しなければなりませんし、人口も増やさなければなりません。そして、工業も特に重工業を中心に発達させなければなりません。そういうことを目指した時代がありました。そして、戦争を何回もやりました。その結果、最後の戦争で日本は敗れました。1945年、昭和20年8月15日をもって終戦記念日としていますが、これは、正しくは敗戦記念日です。つまり、国を強くして膨張させて、ほかの国まで取り込んで我々の国だと言って、その結果みんなで幸せになろうと思った時代は、世界から「あなた方の生き方は間違いだ」と糾弾されたわけです。そのとおり無条件降伏したのが、1945年8月15日であり、これが一つのポイントです。つまり、ここで一つの時代が、端的に誰が見ても分かるようなかたちで終わってしまったわけです。国家の時代の終わりです。 会社の時代 そして、昭和20年代は何を目指して生きれば良いのか、目標が分かりませんでした。しかし、分からないなりに一生懸命やってきたのです。その結果、昭和40年代の高度経済成長になり、現在の日本があるわけです。1980年代には、日本は名実ともに世界の経済大国と言われています。昭和20年の敗戦によって日本は、世界最悪の債務国になり、こんなひどい状態の国は立ちあがることが出来るのだろうかと、全世界から心配されて見られていました。しかし、アメリカを中心とする連合国側が手助け、救済をしてくれたこともあるでしょうし、日本国民もこれから何をすべきか迷いながらも20年代の混乱期にさらに懸命に努力をして今日の経済の繁栄を築きあげる基をつくったということになろうかと思います。そして、結果的にこの数10年間を振り返ってみると、これはまさに経済の時代でした。会社を強く大きくして、大部分の人が会社員になっていった時代です。今、学校のPTAの職業欄を見ると、ほとんど9割方は会社員です。しかし、敗戦のあたりに会社員は何割いたでしょうか。その後、会社員はどんどん増えていったのです。人口も、東北から東京にどんどん流れていったのです。ですから、今の年代で言うと50代、60代の方々は、山形で生まれ育って高校まで出た、あるいは中学までいた、その後学業や集団就職などで、大部分の人が東京に行って、そのまま留まって、こちらに帰ってこないで東京の人になってしまった人はたくさんいます。そういう時代を経て、現在があるわけです。 経済の時代の転換 それでは、現在も会社の時代が続いているのか、終わろうとしているのか、あるいは終わったのかが、問題です。この時代認識をきちんとすることによって、自分の経営判断に自信を持てるか、あるいはどうなるのか不安だ、景気が悪いから早く回復してもらえないかと人頼みになるのか、のどちらになるのかが分かれます。自分で判断して決断できるか、人から判断してもらうために待っているのか、その違いに現れるということです。この「どちらなのか」が、今なのです。どちらを取るのも自由ですが、自分で考えてみましょうということです。そこで、私なりに考えていることがありますので、それをお話します。これが当たっているかどうかは、歴史の判断ですから、10年くらい経たないと正しい評価は分からないかもしれません。会社・経済の時代には、ジャパンハズナンバーワン、世界の中で日本は最高の経済大国だと言われたり、あるいはパックスジャポニカ、パックスとは全世界を支配するという意味で、以前はアメリカが支配していたところを日本が支配できるのだという言葉まで出ました。その前はイギリス、その前はオランダとかポルトガルなどと支配していた国が替わってきたわけですが、その覇権がアメリカから日本に移るのだというような人が出てきたのが、この時代です。 そのようにして到達したのが、1989年、平成元年12月29日、日本の平均株価が38,915円という史上最高の高値をつけた日です。ところが、今日の株価はいくらでしょうか。せいぜい上がってみても15,000円前後なのです。そして、経済というものは、株価を見ているとおおよそ分かるのです。なお、株に対しては、相場に手を出さないと思っている人はたくさんおり、特に山形県の堅実な方々はそういう人が多いという側面はありますが、別の側面も率直に認めるべきです。株価とは、企業に対する全世界からの評価なのです。日本のお金だけで株式の売買がなされているのではなく、全世界のお金が動いて取引されています。つまり、日本の経済を支えている中心となっている株式会社、上場されているのが約2,000社、に対する全世界からの評価が株価に表われるということす。そして、それが一番高いときには38,915円でしたが、今は14,000円とか15,000円であり、高値の4割くらいにしかなっておらず、6割下がっているのです。そうなると、これは、大暴落以外の何物でもないわけです。 モノと金から次の代へ そして、これまでは会社を強くして売上を大きくして、利益を上げて、利益の分配である給料や報酬とかを多く受けることによっていた私達の幸せでした。しかし、会社の評価がそれしかなくなったということは、多くの人からその幸福が実現できないという評価がなされたという結果として、この数字に表われていると考えてよいのではないでしょうか。つまり、1990年1月以降は、株価がずっと下がりっぱなしなのです。先ほどの昭和20年8月の無条件降伏というように、「この日をもって」変わったとは、経済の場合には特定しがたいです。倒産したというのではありませんし、まして日本経済全体の評価というと、そう簡単に断言することは出来ません。しかし、この数年間の動きを見れば、経済の時代、会社の時代は終わったと考えざるをえないのではないでしょうか。そう判断すべきなのではないでしょうか。また、次の時代が今起こりつつあるのだということを考え、その時代に即応した経営戦略を作るべきときなのではないでしょうか。 ところが、そうしないで、「今は不況でいずれ好況が来るまでじっと我慢しよう」と思って明日から始まる新しい波を見過ごしてしまったならば、新しい経営戦略は出てくるはずがありません。それから、戦術として、社員に経営方針を伝えて何を目指すべきなのかということを指導できるはずがありません。今、新しい感覚と新しい方針と戦略を頭の中で考えて、それを実行していくことが出来るかどうかによって、10年後、20年後、30年後の企業の盛衰が、そして個人の幸せの帰趨が決まるのではないでしょうか。日本の企業で、大企業、優良企業、すばらしい成長産業、成長企業だと言われている企業が起こったり成長したのは、ほとんど大部分が戦後昭和20年代で、世の中がどん底にあることを物ともしないで、ここから俺達はやるのだという意気込みと力と情熱と知恵を出し合ってやってきて、今世界的に活躍しているわけです。同じ事が、今から出てくるはずなのです。 つまり、先ほど会社の時代は終わったとお話しましたが、会社がなくなるわけではないのです。会社や経済は、あくまでも土台であり、土台がなくなるわけが絶対にないのです。したがって、土台だけではだめだという時代が来るということです。ここを正しく理解しなければなりません。つまり、土台はしっかりして十分だけれど、その土台に建てたり、組んだりするのが、今までのスタイルでやったのでは、私達は幸せになれないと皆が気付いているのが現在です。 個人の時代へ では、これからは何でしょうか。1990年から10年間というのは、先ほどの歴史の中に当てはめれば、昭和20年代と同じ混乱期で、皆どうしたらよいか分からない、また、これからどちらの方向に向かうのかすら分からないような時代であり、今もそうで、そのくらい大変であるけれども、次の時代が開く大切な時期なのだということです。それから、もう一つ、先にお話しました60年に1回の経済、景気というものが大きく変わる節目として、二つの大きな要素がちょうど合わさったのです。1990年代は、大不況期の1930年代と同じだということと、価値観が大きく変わる3つのうちの1つとが今一致しているのだと考えれば、二重の意味で増幅して大変な混乱を含む時代になっているわけです。何をしたらよいのか分からないし、もちろんこれからどうなるのかも分からない、という時代です。 だが、誰かが結論を出してくれるでしょうか。大蔵官僚をはじめとして優秀な公務員というものは、後ろを向かせるとよい成績を出せる人なのです。前を向かせたら、どうしたらよいか分からない人かもしれません。また、前を向かせて、あなたならどうしますかというようなテストをされたことがない人達なのです。こういう人達は、優秀な成績で高校を卒業して、東大をはじめとする一流大学に入学し、そこでも4年間ビシッと勉強をして、そして公務員試験を立派な成績で通って、エリートまたキャリアと言われる人達です。そういう人達は、前を向いて将来の予見を出来るか、今どのような戦略を立てるべきかということを、どこかで試されたでしょうか。そういう人達に頼って、どうにかしてくれるのではないかとか、日本の官僚は優秀だと言って、そういう人達に自分達の幸せを預けては、少々心許無いのではないでしょか。やはり、自分自身が、自分の価値基準による自分の判断で、自分の幸せを、そして自分の家族の幸せを、そしてまた自分の企業の、社員達の、取引をしてくださる人達の幸せを、自分自身が作り上げるのだいうことが、今、求められているのでしょう。 消費者性向の変化 そうしますと、個人が幸せになるということは、どういうことでしょうか。十人十色という言葉があります。しかし、国家の時代には、十人十色ではなく、十人一色というような、皆が同じ色に染まって、同じ服装をして、同じ物の考え方をしていないと、あいつはアカだとかのレッテルを貼られてもおかしくないという状況であり、そしてまた、皆がそう思うことによってこそ日本国が発展できるのだ強くなるのだ、国民はそうすべきであり耐え忍ぶべきなのだ、それが自分達の幸せの基になるのだと考えていた時代です。その後、本当の意味で十人十色になりつつある時代は出てくるわけです。では、今はどうでしょうか。今の事実を見ると、十人十色を通り越して、一人一色くらいでは個性ではないと言われています。つまり、「一人十色」の時代がきているのではないでしょうか。 たとえば、皆さんたいていの方は腕時計をされていますが、過去10年間で何個買っているでしょうか、5つも6つも買った人は、おそらくここにおられる方の中にはほとんどいらっしゃらないかと思います。私は、高校に入ったときに親からお祝いに腕時計をもらって、大変感激した覚えを持っています。昔は、動かすことによって自動的にネジが巻けるものが新製品でしたね。しかし、我々の子供達や高校生くらいの人達は、4つも5つも買って持っています。つまり、消費者の性向が変わってきているわけです。商売をやるためには、必ず消費者がいるわけで、その消費者の動向をどのように捉えるかが大切です。 昔は、隣のうちが冷蔵庫を買ったからうちも欲しい、隣では自動車を買ったからうちも欲しい、という時代でした。また、これが経済成長期である会社の時代の中において、お金があれば買える、買いたい、だからお金が欲しい、一生懸命働こうという時代でした。しかし、今の子供達は、そういう考えはなく一生懸命働こうと思っている人はどれだけいますか。これは、本当に憂うれうべきことです。そうではありますが、憂いてばかりはいられませんし、こういう事態をおかしいと批判しても始まりません。そこで、そのように時代が変わりつつあって、変わって、物事の考え方や価値観も変わってきている現実に合わせた商売をしなければならないでしょう。また、そこで歪んでしまっているものを直さなければならない要因もあるでしょう。教育とか人間の本質とは何かについて、教えたり導いたりしなければならないことは、大いにあります。その両方とも、我々は自分で判断をして、自分達に関わる人達に対して、場合によっては教えたり、場合によっては情報を得て教わったりして、皆一緒になって幸福になれるようなシステム、また商売のあり方を新しく作っていくことが、今求められていることです。 歴史のサイクルを見ると 日本は昭和20年(1945年)からずっと債務国でしたが、どこかでプラスマイナスゼロになりました。そして、その後、超債権国になっているわけです。それでは、そのゼロになった時点はいつなのかというと、昭和42年(1967年)です。つまり、ほぼ20年かかって、マイナスからゼロまで上げていったわけです。この昭和42年は高度経済成長が始まる時期ですから、この歴史の教訓を置き換えて、1990年に20年足してみましょう。そうすると2010年で、これから12年後です。そこで、今お話したような、価値の大きな転換が完成します。だから、まだ10年間チャンスがあります。多くの人は、そのようなことに気付いていません。気付いている人は少なく、また気付いていても実際に何をやるべきか分かっている人はもっと少ないのです。そして、何をやればよいか分かっても実際やれる人はほとんどいません。ほとんどいないからこそ、やった人は成功するのです。2010年、この年を目指して、何をすべきかの長期経営計画を立てる時期なのです。その経営計画を立てるために、今の時代は何か、今日はどういう時代の中にあって我々は生きているのかを正しく理解するのです。ただし、正しいかどうかは歴史が判断するので、結論は分かりません。大事なのはそれなりの自信を持つことなのです。自分が自信を持って判断することなのです。そして、決断をすることです。それが、大事だろうと思います。 行動計画の視点 そこで、次の行動に際してのポイントを述べます。そのような時代において重要なことは、選択できるということです。これから、個人の時代の中では、人間として選択できることが最大のポイントです。選択できれば、納得して満足できるのです。つまり、消費者に対して提供するサービス、提供できる商品が、消費者が選択できるものであれば、消費者は喜んで、納得して買ってくれて、満足します。満足すれば、もう一度行きます。その時は、自分だけではなく、家族や友人を連れて行きます。それが出来るかどうか、だと思います。 先程、高見屋でパンフレットを作ったという話を聞きました。それで、商売というと、宣伝、広告をしなければならないと一般に思われていますし、実際にやっています。しかし、一番効果のある方法は、「人」なのです。人が人に対して言うことです。人から言われると、なるほどそのように良い物であれば私も買ってみよう、私も行ってみようと思うのです。そうすると、そこで、「信者」になるのです。信者が増えれば、広告などしなくても人は来ます、商品は売れます、サービスの提供を求めて来ます。そして、その信者が多く、諸人になれば、もっともっと企業は繁栄できるわけです。そして、仕事をしている自分達も、納得して、生きがいを持ってそのような商品やサービスを提供できるわけです。その結果、これらの要素を全部合わせると、「儲」という字になります。つまり、利益が自然とその人の手元に、その企業にくるということです。私は、これからは直接的な利益を追求してはいけない時代ではないかと思うのです。利益とは、結果なのです。それよりも、どれだけ多くの人に、どれだけ信じてもらって、「あの商品は良い、あそこのサービスは良い、満足できるからあなたも是非経験してみなさい、納得できるし、自分が幸せな気分になれるよ」と言ってもらって、そのような信者を諸人つくれるかどうかなのです。そうすれば、宣伝費は必要ありません。マスコミやテレビ局には悪いけれども、広告費用は結局無くなってしまうわけです。 中小零細企業の視点 それは、大企業ではなく、中小零細企業だからこそ出来るのではないでしょうか。つまり、大企業だったら、日本国民1億2500万人皆に自分の名前を知ってもらわなければならないのです。そうでないと、同業者から負けてしまうので、新聞にもたくさん広告をしなければならないのです。いま手元にあるこれは今日の日本経済新聞ですが、ほとんどの広告は大企業だけです。零細企業の広告はありません。小さな企業がこのような媒体に広告を載せてもあまり意味も効果もありません。つまり、その広告を見ても信者にはなってくれません。また同様に、この新聞記事について見ますと、ここに中小零細企業の情報がどれだけあるかと言えば、ほとんどありませんし、ほとんど上場企業からの情報です。つまり、大企業からの情報しか載っていないのです。それだけ、零細企業は、情報面でギャップあるいはハンデがあります。だから、大企業と同じような方法で競争しようとしても、絶対的に負けます。それよりも、やはり、大企業に出来ないこと、大企業のようにお金をかけなくても出来ることをやることです。それが何であるのか、新しいやり方あるいは独自のやり方を開発して、自分で出来るようになれば、その企業は必ずや成功します。そのときのポイントは、お客様のあることですから、お客様の立場に立ってみて、お客様が選択しているのだ、という気持ちをお客様に持ってもらうようなサービスや商品を提供できることであろうと思います。それを、それぞれの企業の中に当てはめて考えていただければいいな、と思っています。 そして、中小企業、零細企業の経営の特性から考えると、新聞とかテレビなどで扱われている情報物を見て、そういうものをヒントに自分のところでやってみようとしても、これは負ける、ということです。では、何をすべきか。大企業が出来なくて、小さいものが出来ること、それは、簡単に変われる、ということです。そして、時代が大きく変わるときで長期不況の今、求められているものは新しい商品の開発なのです。新しい商品の開発とは、自分自身や企業が変わらないとなかなか出来ません。よく言われる事ですが、タンカーのような大きな船が、前に大きな障害物があるからこれを避けようと舵を切っても、なかなか曲がりきれません。ところが、小さなモーターボートなどはくるくる回るようにすぐ回っています。その有利な面をどのように自分の経営に活かしていくのかが、大事だろうと思います。無いものを求めたり、有るものと無いものを比較して悲観しても、そこからは何も生まれませんし、どんどん心細くなって、経営することが嫌になって、マイナスをマイナスのままで負担を負い、良いところは大企業に取られてしまうというようなことでは、今までの会社の時代のままです。あるいは、生産性が大企業に比べて零細企業が悪いと思われて、実際にそうですから、そんな気持ちでは、それがこれからもずっと続いてしまいます。そうではなく、これからは逆で、中小零細企業のほうが大きな収益をあげることが出来るのだという気持ちになって、この不況と言われているものを自分でいわば利用して、自分の会社を引き上げていただきたいと思います。 直面する対策の具体例 最後になりますが、企業経営において今何をすべきかをお話します。 消費者に対しては選択だといいましたが、企業側においてはその選択できるような商品をどのように提供できるようにしていけば良いのか、です。今までの商品は、皆から「こんな商品はもう持っているから要らない」と言われているのが、現在です。そうすると、今までと同じ物を一生懸命になってコストを下げて作ってみたところで、コストがゼロにはならず、ただであげるわけにはいきませんから、結局それは商品開発の努力としては無駄なのです。まして、コストを下げることは大量生産にかないませんから、中小企業がやってはいけないのです。中小企業がコストを下げて物を作ろう、売ろうと思ったら、結局、自分自身やそこで働く人達がいっそう大変になるだけなのです。それよりも、付加価値があるものを作るのです。それでは、付加価値とは何か。付加価値とは、相手が、「選んで良かった」と思うところの要素です。 それから、今までにないもので、新商品を作らなければなりません。新商品と言うと、「物」というものにこだわりがちですが、サービスもそうです。また、同じ物であっても、流通の方法、システムを変えれば、これも新商品です。形の有る新しい商品を作る、形の無い新しいサービスを提供する、今までに有る商品やサービスであるけれどもその流通システムを新しいものにするとか、それをお客様が手にとって使うときに新しい価値を付加して提供できる、ということが、これからなすべきことです。物を作る人も売る人も流通する人もサービスを提供する人も運送する人も、それぞれすべからくそのポイントで考えてみてください。そうすれば、必ずやお客様からの反応があります。そのお客様からの反応を待って、そしてまたその次の段階へ進めましょう。顧客の反応という情報管理を、従業員が1万人もいて全国にネットワークが張り巡らされている大きな会社が出来るかというと、出来そうに思われますが、実際は違います。支店や出張所や営業所の情報を社長が見ているでしょうか。社長の顔も見たことが無いし、社長と話したことも無い社員が大部分でしょうから。そのような会社では、情報は動きません。 情報とは、データではなく、あくまでも情なのです。人間の感情なのです。その感情に報いられるものが情報なのです。きょうの日本経済新聞に書いてあるようなものは単なる知識でしかないのです。だれでも見れば分かることですから、狭い意味の情報ではなく自分にとって個別の価値は大きくありません。このような誰でもが見られるものではなく、自分にしか求められないような、得られないようなものが、本当の情報なのです。そして、情報はあくまでも人から得られるものです。私は、今日お集まりの五十数名の方々に対して、これが一塊だとは思いません。50人の方々がいれば、自分から見て50とおりの、1対1の情報があると考えます。この情報を今からどうやって自分が自己中心に統合するのか。これが、これから求められる課題です。 失敗研究 次に、失敗研究(フェイリアスタディ)についてお話します。経営者がなすべき究極の失敗研究は、企業がなぜ倒産したのかを調査して分析することです。しかし、実際にある企業が倒産してしまうと、経営を続けている一般の経営者は、倒産した社長その他の人から、経営の失敗についての本当の情報を得られないでしょう。本人が話したがらず、こそこそと顔を隠してしまいますから。そこで、最新の「日経ベンチャー」(1999年)12月号に、建設業の鉄筋部門において自分の会社を一代で日本一になるまで築き上げたけれども結局倒産させてしまって、今はアパート暮らしをしているという「さとうよしお」さんが、自分の恥をしのんで、皆さんは私のような失敗をしないでくださいという講演録が載っています。そのなかで、佐藤さんは3点挙げています。是非この3点を考えて、教訓にしていけば、自分の企業経営についてもすばらしい教訓になると思い、紹介する次第です。 彼は、1996年10月に破産しています。まだ2年前のことです。その方が、今の経済状況から判断して、2〜3年後から明るさが見え始めるだろうと言っています。これは本当に当たるかどうか分かりませんが。そして、中小企業にとって、一番大変な時期が、景気が良くなりつつある時だと言っています。つまり、2〜3年後(2001年ころ)が、中小企業にとって一番の試練の時期になるでしょうと言っています。そのような現状を踏まえて、3つの提案をしています。 1つは、現金を持ってもらいたいということです。今月の資金繰りが大変だからといっても今の銀行は貸してくれません。逆に、新たな資金繰りのお願いなど申し入れようものなら、今まで貸していたものを返してくださいと回収にかかられます。それが、今の銀行の貸し渋りという現実です。そこで、従業員給料や公共料金などの現金で支払わなければならないようなお金を2〜3か月分は、現金で持ってくださいということが1つです。 それから2つめに、あまり大きくするなと言っています。この人は、どんどん事業を大きくして、結局自分の手におえなくなってしまい、独善的に陥り、判断ができなくなってしまったのです。つまり、情報が来なくなったのです。一人の人間が把握できる人数は120人が限界で、社員がそれ以上になったら分社して別の人に社長になってもらってグループなど関連会社とし、経営をこじんまりやっていったほうがよいとも言っています。 それから3つ目です。これを是非とも今日はお勧めしたいと思います。経営者同士の同盟を作ってください、ということです。いろいろと情報をくれる社内の参謀よりも、経営者として同じつらさを共有できる社外の友人、またその人の意見のほうが、はるかに大事だということです。つまり、会社に行けば、皆さんは社長とか専務、部長として責任ある立場で対応しなければなりません。そういう中では、本当に自分自身を見つめなおすような情報というものは、なかなか出難い部分があります。まして、経営者として何をなすべきなのか、という情報は、なかなか会社の中では得られません。それよりも、経営者同士、同じ資金繰りの悩みを分かち合えるような人達と、本当の意味での情報つまり情けを通じてお互いに報い合うという関係を、グループとして作ってくださいということです。私は、これが今の経営の中で一番大事だと思います。そして、このように年1回お集まりの時に、いろんな情報を交換して、自分に受け入れられるようなものを、今日明日からすぐ役立てるようなこと、そして自分の発想を変えなければならないようなこと、そのヒントにしていただけるのではないかと思います。もちろん、きょうお話した内容の一部なりともそのヒントにしていただければ、大変ありがたいと思います。 ペアシステム 時間の都合上これで最後になりますが、新しい商品、新しいシステムの作り方として、最後にアドヴァイスしたいのは、ペアシステムということです。 ぺアとは、違うものと違うもので、つまり人で言えば自分と違う人といっしょにやりなさいということです。そうすることによって、新しい発想が必ず出ます。自分と違う業種の人と付き合ってみると、自分の通常の領域ではとても考えつかないような、けれども隣の人の領域ではごくごく当たり前にやってきているような、すばらしいヒントがあるのです。それを掴んでください。商品開発にしても同じで、違うものを合わせてみると全く違うものが生まれるのです。これが、商品開発や新しいシステムを開発する場合に極めて有効な方法なのです。 1990年から始まった変換期、そして2010年に一つの完成を迎えるであろうという私の予測のもとに、1998年12月4日という日を位置付けていただいて、これから皆さん方の経営がさらに発展されるように期待してお祈りをいたしまして、最後にご清聴をありがとうございましたと感謝を申し上げます。 (参加者の発言) 大変ありがとうございました。これからの社会は、よく国際化情報化高齢化ということを切り札にしてやったほうがいいよという話を、私もいろいろとお聞きしているわけですが、そういった中でももう一歩切り込んだ内容でお話をいただいたということで、自分が今やっていることに対して、非常に自信を持てたという感じを抱けたことに、大変感激しているところであります。大変厳しいという中で、非常によい場面が、小さな部門から生まれてきていますので、そういったものを大切にしてあげるべきだということで、自分でやっているところでありますので、先生のお話を聞いて、大変自信を持てたということで、質問ではないのですが、感謝の言葉に代えさせてもらいます。 (金山宏一郎会長のご挨拶) 様々なところから、様々なご指導をいただきまして本当にありがとうございました。私事で恐縮ですが、ガソリン屋でありながら世界の情勢の中にどっぷり浸かって、しかも蹴飛ばされてやっております。なんとか、落ち着きを取り戻しながら、商売をやっていきたいと思っています。今日は、そういったことの中にあっても、冷静に自分の周りをぐるっと見ながら、しかも、大勢の方々の意見を伺いながら、何とかこの厳しい状況を乗り切っていきたい、そんなふうに思っていたところです。今日は心から厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。 ------------------------------------------------------- 【配布レジメ】 自分で自信をもって判断し、戦略を構想し、戦術を実行するために、ものの見方と考え方のヒントをお伝えしたいと考えています。 お話しの内容は、次のようなことがらです。 歴史の中で、私たちは今どこにいるのか? 現在の経済状況をどう捉えるか 「不況」「景気」とは何か 時代相の大きな変化の中での「今」の位置付けと、将来予測 経済、政治、社会の状況の変動にあてはめてみる 今は、歴史の大きな転換期 基本的価値基準が変わる −−−人生の目的と幸福の基準 1 国家−−軍事 1945. 8.15. 富国強兵 戦争 2 会社−−経済 1989.12.29.? ジャパンアズナンバーワン 38,915円 1ドル80円 3 個人−−人生 社会に貢献し、同時に自己実現することの「幸福」を目指す 本当の個人の豊かさを実現できる時代になる 個人の「真の豊かさ」=「幸福」を実現する −− キーワードは「選択」 「豊かさ」とは何か−−−時代と地域により異なる価値基準 選択幅の大きさ、選択肢の数が多いこと 選択と自己実現−−→人生の「満足」 中小零細企業経営の特質 大企業との違いを認識する。企業の特性に合った経営をする。 −−零細企業経営に関する学習の難しさ 最後に損をするのは、いつも消費者と地方の零細企業です (しかし、その実感を持たないことの方が問題です) 経済(所得)における不平等の原因 所得はどこから生ずるのか 「不況」(経済的閉塞状況)の中で成功する方法 経済情報の読み方 「情報」の二義性−−その収集、管理、加工、発信、回収 需要の飽和−−−売れない −−新規需要の開拓、新商品の開発 不況の打開策は、新商品(システム)開発だけである。 なしえた企業は飛躍的に発展 × 「しかたがない」と諦める人が多い その主体としての企業−−−異質との結合による創造的組織 −−ペアシステム 新商品開発の方法 新商品は、新製品ではない。 ニーズとシーズ 新しいものを生み出すための基本原則 「異質」の物・人・情報の組み合わせ プロセスカット(PC) |