長岡壽一講演録(企業経営) 2001(平成13)年7月18日(水)
午後6時30分〜7時50分
山形市 南沼原公民館 1階会議室
主催:山形県中小企業家同友会・山形支部
講師 弁護士 長 岡 壽 一
Nagaoka,Toshikazu
テーマ 時代相の変化を読む
−−−新しい幸福をつくり出す企業が求められている
人の行動を分析する
皆さんは経営者という前にひとりの人間です。何のために生きているのかという人生の目的・目標をまず考えてみます。その場合極めて大きな問いかけをすると、焦点がしぼれず、どう考えてよいのか分からなくなります。私自身もそのように他人から問われても答えにくいです。なぜこのような問いかけをするのかというと、人間の行動が、経営と経営の中で必要なお客様に関連しているからです。企業経営とは人間の行動の本質的部分が現れています。
だから、そういう観点から質問させていただくと、みなさんは、7月18日18時30分から、南沼原公民館で、私の講演があるので聞きにいこうと決断したわけです。このように一同に会しているため、集まりが自然につくられているようにも見えますが、ここに来られたのは皆さん一人ずつが意識を持って来られたのです。それを過去に遡って、今私がここにいるという状況、結果がなぜつくられたのかということを分析してみます。数日前案内をもらい、行くか行かないか、どうしようかと考えたわけです。表題だけではどんな話かわかりません。つまらないかもしれないし、おもしろいかもしれない、また誰が話すのかなど考えてきたと思います。私のことを知っている人は「あの人の話ならまた聞いてみよう」と思ったかもしれないし、知らない人は「どんな話をするのか聞いてみよう」と思って判断して来てくれたと思います。
今ここにいる皆さんは、どういう理由で判断して選択して来てくれたのでしょうか。今日の行動を振り返ってみましょう。今日18時30分まで来るということをインプットして、どのようにして行くのか考えたはずです。交通手段、ルートは皆さんそれぞれ違います。会社から直接来た人や、一度家に帰ってから来た人などいろいろいると思います。それでは交通手段、ルート、時間を判断してみます。18時30分というとラッシュに相当する時間なので、日中スムーズに通れる所でもこのような時間だと結構かかります。出発点から到達点までにかかる時間を考えて出発します。つまり、目的・目標というものが先にあります。それを実現するために手段を一つ選んでそれを実行し、その結果皆さんここにいる訳です。ルートや時間によって上手く来れたということで、その目的・目標が達成さえたことになります。ずれた方は少し遅れることとなり、その違いは目的・目標をしっかり設定できたかどうかにかかっています。これが積み重なって1日の人間の行動となります。そして、集大成が1人の人生となるのです。
企業活動と人
企業とはこのような主体性の集まりで、同じ目的をもった人により企業ができます。目的・目標が1つにならないと、企業は組織として成り立ちません。企業としてのシステムをつくるためには、同じ方向を向いていなければなりません。例えば、同友会の中でも経営理念をどう設定するのか、その理念に基づいてこれからの計画を立てます。目的・目標を明確にします。理念と目的・目標はほぼ同じ意味です。目標とは、目的に基づいて具体的に実現したい場面、例えば年間の売上を1億円にしたいということを想定して、手段を考えていきます。
人間の生きる目的・目標はそれぞれ違うので、人間の行動とは目的・目標があって、それを実現するための手段の選択、実行があり、その結果目標が達成されれば良しとします。しかし、多くの場合そうはなりません。その場合「なぜ達成できなかったのか」「なぜ途中で挫折したのか」「なぜ想定しなかった外部的要因が降りかかったのか」もう一度振り返って分析してみます。これを毎日繰り返すことが経営者としての役割であり、自分を豊かにすることにも繋がると思います。
企業の目的と手段
次に企業の目的は何なのかを考えてみましょう。「私は何のために働いているのか」「事業をしているのか」「この企業を設立したのか」を考えると人それぞれです。目指すべき所は皆違っていいのです。しかし、その中で一般的に言えば一つの言葉、つまり、すべての人に共通の言葉に行き着きます。それは「利益をあげる」ということです。企業経営の目的の中で「利益をあげる」ということは、すべての経営者に共通していることです。利益には大きいものも小さいものもあり、また、どの段階での利益なのかという問題もあります。これは企業によりさまざま異なり、当然のことです。
自分の企業に置き換えて「利益をあげる」ということがどういうことなのか考えてみましょう。これは目標なので、実現するための手段を考えなければなりません。手段も千差万別あるので、それを分析しても企業によって全く違う場面にいたるでしょう。生鮮食料品を売るのとと工場で金属を加工するのでは全く違います。そのため、自分が参考にする例として、自分と同じような業種で同じようなことをして成功している人や企業を探しがちです。
しかし、新聞やテレビ、本などに載っているものを真似しても、企業経営の観点からすれば無価値です。なぜ無価値かというと、皆がそのようにしてしまえば、皆が成功し競争というものがありえなくなるからです。ここで必要なのは独自性です。人がやらないようなことを見つけ、自分の企業だけのものを見定めることが必要です。独自性があると、その企業が伸びる原因になります。反対に独自性がないと、強いものと競争すると必ず敗れます。大きいものと張り合えば、必ず倒されるという結果になります。この中小企業家同友会の会員で、「私の企業は強いんだ、競争には負けない。」と自信をもって言える企業は1%もないのではないだろうかと思います。仮に言葉で言えても、実情はそうはなっていないのです。つまり、皆弱い立場にあるということです。その条件のもとで、どのようにすれば独自性が発揮でき、目的・目標が立てられるのかということが課題です。
「ザ・ゴール」という本
経営に関していろいろな本がありますが、今すごく売れている本で、10年前にユダヤ人の学者が書いた「ザ・ゴール」という本があります。私はいつも自分自身のこと、経営のこと、事務所運営のことを考えています。業態によって違いますが、企業の事業とは何か、どうすれば利益があげられるのか、自分で考えたり、人の話を聞いたりしています。人の話でも他人ごとではなく、自分と関連していることなんだと心がけて思うようにしています。この「ザ・ゴール」を読んで、このとおりだと思いました。今にも倒産しそうな企業があって、工場長が2〜3か月で立て直していく話です。分析に基づき大幅な改善と改革が行なわれ、その企業のなかでもトップの成績を出すようになっていく奇跡的な話が小説として書かれています。
この著者は、利益をだすための要件として3つのことを言っています。
1 売上げ(粗利益)をだすこと
2 在庫を減らすこと
3 経費を削減すること
この3つが目標達成のためのポイントであると言っています。倒産しそうな企業がある場合、まず初めにこの3つのうちどれを改善しますか?手を挙げてください。
1−−9人、2−−1人、3−−8人
1と3の2つに分かれました。一般的にコンサルタントに相談すれば、真っ先に3の経費削減を指導されます。不採算部署を閉鎖して、人を減らして支出を減らそうと指導されます。つまりこれは一般的なリストラです。リストラとはリストラクチャリングのことで、本来事業再編を意味します。また、銀行に相談すると、お金を貸す条件として「リストラをしなさい」と言われます。「不採算部門を減らしなさい」「これでは貸せません」と確実に言われます。だから、経営不振の企業において経費を削減していくことは、日本の常識です。
この本は、この常識は違うということを言っています。最初に売上げを伸ばすということを主眼に考えなければならないのです。順番からすると、売上げ、在庫を減らす、経費削減となり、経費削減は一番最後に行なわれます。業種や危機的な状況、理由、原因などによって少し異なる場合もあります。銀行や経営コンサルタントの指導が本当に正しいのだろうかと考えてください。自分自身が納得いくように分析してみることです。固定観念や権威のある人が言っているから正しいと思うのは、結構間違いが多いのです。自分自身で固定観念を取り除いて何事にもとらわれないで考えてみることが大事だろうと思います。
改革という言葉
今その考え方として改革という言葉が使われています。改革とは今までに見てきた視線の方向を逆にすることです。売り手側からではなく、買い手側からみてみるということです。買い手側にたって値段や品質、流通システムなどいろいろな観点から見てみることです。そして次に何をなすべきか、2つあります。1つは今までのやり方を壊さなければなりません。これを破壊といいます。今までのやり方を前提として新しいものを加えたり、改善をしていくといった生ぬるい考えでは時代についていけません。2〜3割だったら壊しても大丈夫と言われています。1億の売上なら、2千万円くらいの部分を破壊しても、残りの8千万円でやっていけます。
壊した所は新しいものをつくらなければなりません。これを創造と言います。破壊と創造は常にセットになっています。第1段階で壊して、第2段階でつくって、第3段階で利益をあげれるように定着させます。歴史で言えば、織田信長と豊臣秀吉と徳川家康の3人にあたります。織田信長はこれまでの旧体制を徹底して壊して、豊臣秀吉はそれを受け継いで新しいものをつくりました。そして、徳川家康は270年も続いた江戸幕府のシステムを定着させたわけです。
この3つの役割は大きな変動期に必ずでてきます。今日はこの3つのうちどれにあたるのかというと、1990年から2010年のほぼ20年間が大きな変動期です。この間に壊す、つくる、定着するという3つが必ずでてきます。しかし、1990年代は、評論家やマスコミなどで失われた10年と言われています。それはなぜかというと、何も進まなかったからです。この3つのサイクルを動かさなければならなかったのに、何もできなかったため不満がたまっていったのです。それが政治にもみられ、小泉純一郎さんが総理になったとき、その不満が期待へと変わり、90%という実態の裏づけのない支持率が表われたのです。この支持は、今までのシステムを壊してくれるのではないかという期待です。彼が新しいものをつくるとは誰も思っていません。だから、徹底的に壊して、お払い箱になれば彼は本望だと思います。次につくる人が出てこなければなりません。例えば、加藤紘一さんなんかは新しいものをつくるということでは小泉さんより頭がいいです。いろいろな知恵を出し合い、制度化していく能力は格段に大きいと思います。小泉さんの後には、別のつくる人が求められます。つくったものを定着させる人も別です。これが2010年までにできあがります。
新しい幸福はどこに
これは政治に限ったことではなく経済や企業経営でもそうなのです。人間の目標とは幸せになることです。その幸せとは、時代によって違います。例えば、明治時代から敗戦までの間の幸せは国が強くなることでした。つまり、自分たちの国である大日本帝国がアメリカやイギリスに勝ち、ロシアの侵略にも打ち勝つような軍事力を持つことが日本国民の幸せを得るための目標でした。アメリカやイギリスが大砲を乗せた船で下関や鹿児島に攻めてきた時、日本の軍隊は全く対抗できませんでした。だから、もっと軍隊を強くしなければいけないと考えたのです。そして、日清戦争や日露戦争で世界の最高の強国とされたロシアまでも破ってしまいました。これで日本は調子にのって暴走した結果が、1945(昭和20)年に敗戦となり終結したのです。
それから1990年までの45年間は経済をもって幸福としました。お金をたくさん得ること、それによって物を得て豊かにすることが幸福となりました。そのために企業で働く人が急増しました。産業構造をみてみると、戦前は半数近くいた農業従事者が今はほとんどいません。会社員がほとんどです。会社で働いて、そこから給料をもらって、家族全員が幸せになれるというのが戦後数十年の幸せでした。
それが実現され満足すると、それだけでは十分な条件でなくなり、目指すべき価値ではなくなります。だから今、1990年代からずっと不況なのです。家の中にすべてがあるため、何を求めてよいのかわからなくなっています。例えば、テレビは誰の家にもあるし、それも1台だけではなく複数あります。自動車や時計もそうです。前にある高校にいった時に聞いた話ですが、毎年時計の落し物が40個近くあるのだそうですが、ほとんどの生徒がとりにこないのだそうです。物に関しては価値を見出していないのです。
不況に勝つ新商品開発
これが、今の不況の原因です。この不況を克服するためにはどうすればいいのでしょうか。今まであるものは、既に手に入れているので、買い替えの需要がなければ新しい購買はありません。では新しい購買を生むにはどうしたらいいのでしょうか。その方法はただ1つ、新商品を出すことです。新商品といっても、広く考えてください。流通の新しいルートも新商品に入ります。需要者側から供給者側にアクセスできるシステムをつくること、これが改革です。くれぐれも安売りをしてはいけません。小規模零細企業は、安売りをすると利益は上がらず、大きいところから必ず負けます。適正な価格で提供して買っていただける方法を考えなければなりません。
そのためには、何をすればいいのでしょうか。1つは、広い意味での新商品の開発です。どうすれば新しいシステムをつくれるのでしょうか。違う人・物と違う人・物とをくっつければ、新しいもの(物、システム)ができます。ところが、1人の頭の中で異質のものを2つ持ってくるのは、極めて困難です。自分の頭の枠の中で考えているので、大した違いは出てこないのです。だからこそ、(今日の会合のような)こういう場所で、自分と違う人と本当の情報(誰にも教えられないような情報、テレビや雑誌からは得られない情報)を交換し合うことが必要なのです。
企業であるからには、利益を追求することが目的であり、今、新しいシステムをつくること、独自性を持つことが求められているという共通性があります。ですから、異業種の人から得られる情報は必ず役に立ちます。しかし、現実を見ると、異業種交流といっても、人の話を聞いて、名刺を交換して終わり、本当の交流などされていないのがほとんどです。なぜなら、自分の秘密を迂闊に人に教えられないからです。企業秘密漏洩罪に問われる可能性もありますから。「情報」とは、「お互いに情けを交流しあって報い合うこと」です。そのような情けと情けが報い合える相手がどれだけいるかです。その相手といっても、同じ境遇の人・家族等ではだめです。家族の枠から出て、全く関係ない人たちと会って親しくお付き合いできる人間関係をもつことが大事なのです。
だから、私は、この同友会には、それを求めたいと思ってますし、お顔、お名前を分かって、情報をいただきましたら、それに対してお返しをしていきたいと思っておりますから、こういう場所に来てお話をさせてもらっているのです。そういうものを「ペアシステム」と呼んでます。違うものを2つくっつけると新しいものができるということです。それを常に、毎日毎日、繰り返して考えることが大切です。
皆さんいろいろな業種の方がいらっしゃっているので、私は、共通な、したがって抽象的な話しかしませんから、その話を聞いて自分に置き換えて考えるのは皆さん1人ひとりの作業になります。しかしながら、それを置き換えてみようとしても、明日になってどれだけ覚えているでしょうか。1回限りのことというものは、ほとんど忘れてしまうものです。1年も経てば100%忘れています。しかし、経営というものは、学習・勉強して自分を鍛えていかなければなりません。けれども、こういう毎月定期的に行なわれるが、毎回テーマ・方向性が違う勉強会だけでは、力がつきません。効率が悪いのです。どんどん忘れてしまうのです。では、どうすればいいのでしょうか。やはり継続しなければなりません。
自己分析とグループ学習
継続の1つは、自分を実験材料にして客観的に観ることです。例えば、自分が買い物に行ったとき、「なぜ、自分はこの商品を選んで買ったのか」と分析してみるのです。消費者である自分の行動を分析してみると、消費者側から供給側をみる目というものが常に出てくるわけです。ひとりの人間は、供給する立場もあるし、供給を受けるお客様の立場も、両方持っているわけです。だから、自分を分析することを、毎日毎日繰り返すことによって、考え方・認識の仕方が自分の頭の中に定着してきます。
それから、もう1つは、情報を共有できる人たちをグループ化することです。例えば、この同友会の会員は200人近くいらっしゃるようですが、そのくらいの人数になると、情報を通じ合って報いあうという関係はつくりづらいものです。ですから、公式の行事とは別に、自分で、自分と違う相手、特に気に食わない相手を集めて、勉強会を開き、継続していくことが1つの方法としてあり得ると思います。そして、そのグループの中で、同じテーマで継続的に何回も何回もやることです。そうすれば、本当に実力がつきます。
勉強やスポーツで優劣がでてくるのは、一番の要因は努力、つまり継続です。ランチェスターの法則というものがありまして、
企業の成果(利益)=武器性能(商品力)×(兵力数)2
だそうです。これを勉強に置き換えると、武器性能とは、どんな参考書を使い、どんな先生から教わったのかという品質を指し、兵力数とは勉強時間を指します。ただし、勉強時間は2乗になるので、1時間勉強した人と2時間勉強した人とでは1対4の、4倍の違いが出てくるのです。
小規模零細企業は、武器性能(人材・商品・宣伝等)では劣るかもしれない。しかし、努力は2乗になるのだから、2倍の差をつけるためには約1.4倍の努力をすればいいのです。他の企業では7時間働いているところを、10時間働けば1.4倍になるから、成果は2倍になるわけです。もし、能力が0.7程度に劣ったとしても、兵力数(稼働時間)で2倍になれば、0.7×2=1.4で、40%こちらの方が優位に立てることになるのです。それを繰り返し学習することです。
最後に提案したいのは、そういうことを、せいぜい15人くらいのグループをつくって、続けてやってみてはどうでしょうか、ということです。業種・年齢・性別も違えて、そういう企画をしてはどうでしょうか。
これで一通りのお話を終わりにして、ご質問をお受けします。
中小企業家同友会の関わり
(質問)
先生は、中小企業家同友会の会合によく出席されていますが、ご自身と中小企業家同友会の関わりについて、どのようにお考えでしょうか。
(長岡)
私にとって同友会とは、「本当の情報源」なのです。というのは、同友会において、私は「異質な相手」に出会えるからなのです。
私と同じ職業の弁護士同士で話をしたところで、同質的なものの考え方がでてくるだけですから、自己の発展というものがありません。だからこそ、同友会において、私の職業とまったく違う人たち、違うものの考え方で、違う生き方をしている人たち、そういう方々とお会いすることが、私にとってはすごく価値のあることなのです。ですから、できるだけ多くの人とお付き合いをして、多くの人の企業経営なり人生なり、ものの考え方とかをお聞きして、そこから情報を仕入れたいと常に思っています。また、その「情報の道」が途切れてしまうところで、その人の「成長の道」も途切れてしまうのではないかと思います。
ノウ・ハウからノウ・フウへ
さらに関連して言うと、昔は「ノウ・ハウ」を持っている人、つまり、「その人自身が何かを出来ること」に価値がありましたが、今は違います。「ノウ・フウ」、つまり「誰を知っているのか」、例えば、困ったときに相談できる人がいるのか、「こんな商売をしたい」というときに、本当の意味でアドバイスをしてくれる人がいるのか、ということに価値が見いだされる時代に変わったのです。その相談できる人がいろんな分野にいれば、その人の人生は豊かになります。そして、そういう人が経営している企業も、当然利益が上がる体質に自然となっていくものなのです。
先程、「利益を上げるためには売上げを確保することが大事なんだ」と言いましたが、その売上げを上げる秘訣は、「できるだけ多くの人を知ること」です。それによって売上げは確実に上がります。例えば、スーパーマーケットのシステムは、知らない相手を対象にして、サービスをせず、安さのみを価値にして、安ければ買ってもらえるというものです。しかし、それは今限界にきています。今はスーパーでも、POSシステムを導入し、顧客管理をしています。しかし、機械に頼ったのでは、本当の情の交換になりませんから、恐るるに足りないと思います。本当の売上げ・利益は、お客様からお客様のお金をもらったときに発生するのです。「ものを買い、どれだけのお金を払うか」を判断をするのは、お客様です。そのお客様と知り合うことで、売上げは上がるのです。従来のスーパーマーケットのシステムは、これから壊していかなければならないシステムの1つなのではないでしょうか。人間の情が交流できないような売り場ではまずいです。
では、同じ建物・同じシステムの中で、どうやったら人間と人間の交流ができるのかを考えていけば、打開策は出てくるわけです。私は、そういうことを常に考えながら、自分自身の業務・職業ではどうなのか、また、いろんな業種ではどうなのかと考えています。
誰かから相談を受けたとき、例えば、「倒産しそうだが、どうしたらよいか?」とか、「破産せざるを得ないから頼む。」と言われた場合、法律を適用して裁判所にもっていくことは簡単です。弁護士として一番簡単な方法なのです。しかし、「ちょっと待ちなさい。あなた(経営者)がやる気なら、まだやれる方法はあるのではないですか?」と、企業を潰さずに経営を継続させる方向を弁護士として自信をもって勧めるには、私が単に法律のみを勉強していたのでは不可能です。経営者の方々と日常的にお付き合いをして、「どんなことがご苦労なのか」、「今の不況はどんなところに本質があって、どうすれば打開できるのか」を常に考えて生きていなければ、そういう企業経営者の相談にのれないのです。ですから、自分のためにも、そして、いろんな人のために繋がるをことをも考え、私は、いろんな人とお付き合いしていくというのが基本的な姿勢です。
企業における創造と破壊
(質問)
創造と破壊という考え方は、企業にも当てはまることだと思いますが、例えば、創業者が破壊して、後継者が創る役ということで、役割を考えていいのでしょうか。
(長岡)
そうではなく、壊すということは、その前提として壊さなければならない古いシステムが既にあるということです。創業者は何もないところに企業を創造するわけですから、破壊ではなく創造する役目ですね。
では、創業者は何を壊すかといえば、自分の意識を壊さなければなりません。自分の固定観念で事業を始めると、その小さな観念に合った少ないお客さんしか集められません。だから、固定観念を壊して自由にものごとを考えられるようになって創業すれば、いろんな方々の意見を素直に聞き入れることができます。そして、そのアドバイスに従って、また、自分自身で確信をもって事業を展開することができます。だから自信があるのです。だから創業者は1番自信をもってますよね。
しかし、その自信が次第に固定化すると、その自信が災いになって、今度、新たな展開に適応できなくなってきます。すると、それを壊さなければならないのですが、自分では壊すことができないのです。特に「先生」と呼ばれている人にはそのような能力的に劣る人が多いといわれているのはこのためで、だれも批判してくれる人がいないからです。お互い自戒しながら、広い柔軟な考えを持てるようにしたいものです。
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